顔写真 いまをいきる
曽和利光
元オカルト少年。現リアリスト。しかしロマン派の29歳。祖父と一緒にUFOの目撃経験あり。
仕事は怪しげな人事関連のコンサルティング。 将来は坊さんになりたい、仏教ファン。
「昨日や明日のためでなく今を生きる」を合言葉に、 刹那的に飲み歩く毎日・・・たぶん今日も二日酔い。
 


第30回・新歓ふぇち


 

地下室で二人が取るに足らない会話をしている。

A「今年もまた新入生がうちの学部に入ってくる。うれしい」
B「うれしい?なんで?」
A「そりゃだって、誰だってうれしいさ」
B「みんながうれしいからうれしいの?それならみんなが死んだら君も死ぬのか?え?」
A「えらく極端なことを言うな・・・。何か新歓での悪い思い出でもあるの?」
B「うう・・・ある。私は・・・私は・・・・」
A「ああ、もういいよ。ぼくは人の悲劇を聞いて喜ぶなんて趣味は持っていないからね」
B「とにかく私は新歓が嫌いだ」
A「変なの・・・。別に今回も悲しいことがあるってわけじゃあるまいに」
B「へ?そう?・・・そうだね。でも別の言い方をすると新入生が怖い・・・」
A「怖い?なぜ?」
B「また新たに出会いを得れば、私にとって不必要な別れが増えるだけだから」
A「でも、それが人生じゃないか。そこを拒否しては意味がないというか・・・」
B「うん・・・。そうだなあ。まあ拒否しているわけじゃないけど」
A「拒否してるじゃないか。嫌いとか怖いとか」
B「拒否したいけど、実際拒否できないだろ?もし実際拒否できそうなら拒否しない」
A「なんのこっちゃ。ややこしいことを言うな。本当はうれしいんじゃないか?」
B「うむ。そうなのだ。実はね。ただ少し感傷に浸りたかったのだ。許してくれ」
A「それならぼく達は二人とも新歓の季節を祝いたいということだね」
B「そう。勝手に祝ってしまおう。でも、迷惑じゃないかな。私たちみたいなおっさんが」
A「そんなことないさ。ぼく達の時も先輩が手助けしてくれなきゃどうなっていたか」
B「そうだね。新入生ってみんな最初はもちろん見知らぬ者同士だもんね」
A「先輩がきちんとツバ○(※結婚紹介所)役をやってあげなければ何も起こらないよ」
B「なんとなく安心した。ようし、思い切り行こうぜ。もお、たまらんぐらいのやつをな」
A「するどい思い出ができるといいのにな。思い出すとつらいぐらいのやつを」
B「おいおい。つらい思い出作らせてどうするんだよ。だめじゃないか」
A「違うよ、分かってないね。思い出というものは本質的につらいものなのだよ」
B「なんで?楽しい思いでもあるよ、いっぱい」
A「そこへもう二度と帰れないということではどの思い出も同じさ」
B「思い出は別に帰りたいと思う所じゃないと・・・」
A「なら、なぜ君は思い出なんてものを後生大事に抱えているのさ」
B「うーん、いまをいきるパワーを得るための休息所かなあ・・・」
A「それを帰りたいって言うんじゃないかな」
B「うん、そうか。まあねえ。でも、私はほのぼのと思い出を眺められるけどなあ」
A「それは単に悲しさの表現が洗練されただけであって、本質は同じだよ」
B「思い出に帰れないことに少なからず悲しみを感じていると・・・」
A「そう。きっとそうだ。人はすべて意識するしないに関わらず過去を志向するのさ」
B「なんだか、でも悲しいね。そういうのも気づかずにいたいよ、できるだけ」
A「そうもいかないさ。無感覚になるのがいいっていうのか?目覚めていなければ」
B「死んでしまえばいいってことになるもんなぁ・・・時々そう思うけど」
A「誰でも思うことだね。しかしぼく達は生きているんだからしょうがないよ」
B「いまある自分を大切に生きなくちゃね。励ましあって、慰めあってさ」
A「明るい未来を想像する能力だってぼく達は持っているからね」
B「いいこと言うね。まさにそうだよ。今度の新歓だってそういう風に考えれば」
A「期待できるよ、きっと。ああ・・・わくわくする。かわいい子入って来ないかな」
B「待て待て。過度に期待してもしょうがないよ。わかっていると思うけど」
A「わかってるって。別にぼくのものになるわけでなし。ちょっと考えただけだって」
B「謙虚さは大事だよ。そうしていたらそのうちいいことあるよ」
A「へっ。いいよ。慰めてくれなくたって。そう考えて何年たったことか」
B「そんなんじゃないけど・・・ごめん。あんまり助けてあげられない」
A「いいよ。思い通りに事が運ばないということで、ぼくはリアリティを感じられるしね」
B「自分の意識の彼岸としての感覚か。哲学的なのかなんなのかよくわからないけど」
A「ぼくはいつもそうなのさ。あんまり何もかもうまいこといかない」
B「なんだか暗い話になってきたな。でもこんな私たちでも新入生はたててくれるかもよ」
A「そこがいいから新歓が好きなのかな・・・それもまたつらいね」
B「もうあんまり誰もかまってくれないもんね。今では」
A「・・・そうだね。あの人がかまってくれなくても、新しい人がかまってくれるかな」
B「よし。私は次の新歓で私をかまってくれる信者を見つけるぞ」
A「・・・それは無理だろう」

こんなあほな会話を毎年毎年繰り返しながら、必ずぼくは新歓に出席していた。学生時代に5回(留年しているので)、社会人になってからも参加。今年も参加しようかと考えている。





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