曽和利光 元オカルト少年。現リアリスト。しかしロマン派の29歳。祖父と一緒にUFOの目撃経験あり。 仕事は怪しげな人事関連のコンサルティング。 将来は坊さんになりたい、仏教ファン。 「昨日や明日のためでなく今を生きる」を合言葉に、 刹那的に飲み歩く毎日・・・たぶん今日も二日酔い。 |
地下室で二人が取るに足らない会話をしている。
A「今年もまた新入生がうちの学部に入ってくる。うれしい」
B「うれしい?なんで?」
A「そりゃだって、誰だってうれしいさ」
B「みんながうれしいからうれしいの?それならみんなが死んだら君も死ぬのか?え?」
A「えらく極端なことを言うな・・・。何か新歓での悪い思い出でもあるの?」
B「うう・・・ある。私は・・・私は・・・・」
A「ああ、もういいよ。ぼくは人の悲劇を聞いて喜ぶなんて趣味は持っていないからね」
B「とにかく私は新歓が嫌いだ」
A「変なの・・・。別に今回も悲しいことがあるってわけじゃあるまいに」
B「へ?そう?・・・そうだね。でも別の言い方をすると新入生が怖い・・・」
A「怖い?なぜ?」
B「また新たに出会いを得れば、私にとって不必要な別れが増えるだけだから」
A「でも、それが人生じゃないか。そこを拒否しては意味がないというか・・・」
B「うん・・・。そうだなあ。まあ拒否しているわけじゃないけど」
A「拒否してるじゃないか。嫌いとか怖いとか」
B「拒否したいけど、実際拒否できないだろ?もし実際拒否できそうなら拒否しない」
A「なんのこっちゃ。ややこしいことを言うな。本当はうれしいんじゃないか?」
B「うむ。そうなのだ。実はね。ただ少し感傷に浸りたかったのだ。許してくれ」
A「それならぼく達は二人とも新歓の季節を祝いたいということだね」
B「そう。勝手に祝ってしまおう。でも、迷惑じゃないかな。私たちみたいなおっさんが」
A「そんなことないさ。ぼく達の時も先輩が手助けしてくれなきゃどうなっていたか」
B「そうだね。新入生ってみんな最初はもちろん見知らぬ者同士だもんね」
A「先輩がきちんとツバ○(※結婚紹介所)役をやってあげなければ何も起こらないよ」
B「なんとなく安心した。ようし、思い切り行こうぜ。もお、たまらんぐらいのやつをな」
A「するどい思い出ができるといいのにな。思い出すとつらいぐらいのやつを」
B「おいおい。つらい思い出作らせてどうするんだよ。だめじゃないか」
A「違うよ、分かってないね。思い出というものは本質的につらいものなのだよ」
B「なんで?楽しい思いでもあるよ、いっぱい」
A「そこへもう二度と帰れないということではどの思い出も同じさ」
B「思い出は別に帰りたいと思う所じゃないと・・・」
A「なら、なぜ君は思い出なんてものを後生大事に抱えているのさ」
B「うーん、いまをいきるパワーを得るための休息所かなあ・・・」
A「それを帰りたいって言うんじゃないかな」
B「うん、そうか。まあねえ。でも、私はほのぼのと思い出を眺められるけどなあ」
A「それは単に悲しさの表現が洗練されただけであって、本質は同じだよ」
B「思い出に帰れないことに少なからず悲しみを感じていると・・・」
A「そう。きっとそうだ。人はすべて意識するしないに関わらず過去を志向するのさ」
B「なんだか、でも悲しいね。そういうのも気づかずにいたいよ、できるだけ」
A「そうもいかないさ。無感覚になるのがいいっていうのか?目覚めていなければ」
B「死んでしまえばいいってことになるもんなぁ・・・時々そう思うけど」
A「誰でも思うことだね。しかしぼく達は生きているんだからしょうがないよ」
B「いまある自分を大切に生きなくちゃね。励ましあって、慰めあってさ」
A「明るい未来を想像する能力だってぼく達は持っているからね」
B「いいこと言うね。まさにそうだよ。今度の新歓だってそういう風に考えれば」
A「期待できるよ、きっと。ああ・・・わくわくする。かわいい子入って来ないかな」
B「待て待て。過度に期待してもしょうがないよ。わかっていると思うけど」
A「わかってるって。別にぼくのものになるわけでなし。ちょっと考えただけだって」
B「謙虚さは大事だよ。そうしていたらそのうちいいことあるよ」
A「へっ。いいよ。慰めてくれなくたって。そう考えて何年たったことか」
B「そんなんじゃないけど・・・ごめん。あんまり助けてあげられない」
A「いいよ。思い通りに事が運ばないということで、ぼくはリアリティを感じられるしね」
B「自分の意識の彼岸としての感覚か。哲学的なのかなんなのかよくわからないけど」
A「ぼくはいつもそうなのさ。あんまり何もかもうまいこといかない」
B「なんだか暗い話になってきたな。でもこんな私たちでも新入生はたててくれるかもよ」
A「そこがいいから新歓が好きなのかな・・・それもまたつらいね」
B「もうあんまり誰もかまってくれないもんね。今では」
A「・・・そうだね。あの人がかまってくれなくても、新しい人がかまってくれるかな」
B「よし。私は次の新歓で私をかまってくれる信者を見つけるぞ」
A「・・・それは無理だろう」
こんなあほな会話を毎年毎年繰り返しながら、必ずぼくは新歓に出席していた。学生時代に5回(留年しているので)、社会人になってからも参加。今年も参加しようかと考えている。