顔写真 いまをいきる
曽和利光
元オカルト少年。現リアリスト。しかしロマン派の29歳。祖父と一緒にUFOの目撃経験あり。
仕事は怪しげな人事関連のコンサルティング。 将来は坊さんになりたい、仏教ファン。
「昨日や明日のためでなく今を生きる」を合言葉に、 刹那的に飲み歩く毎日・・・たぶん今日も二日酔い。
 


第25回・不信感スパイラル


とある就職サイトで就職相談をしているのだが、最近特に多いのが「面接辞退ってしてもいいんでしょうか」という悩みだ。
「A社の最終面接で、『当社は第一志望ですか』と聞かれて、思わず『はい』と言ってしまいました」とか「内定をもらって、他社のことを聞かれたので『もう就職活動はしていません』と答えましたが実はまだ就職活動しています」とか。
なかには「他社の就職状況を聞かれるのですが、内定をもらっていないのにもらったと答えたらばれますか?」などという質問もあったりする。
嗚呼、ばれるかいっ!(むかーし、商社とか銀行で人事同士が情報交換等の噂も聞いたことあるが、定かではない)

そりゃ職業選択という意味では憲法で保障されているぐらいだから、内定辞退をしていけないわけがない。企業に内定承諾書を書かされたとしてもそれをたてに入社を強要することはできない。せいぜい学生の良心に訴えかけるのが関の山である。
一方、もし企業が本気になったら「損害賠償」という切り口で訴訟を起こすかもしれない。しかし実際問題としてそんなことをする企業はどこにもないと思う。かっこ悪いからだ。
質問に真正面に答えるとすればそれぐらいのことを答えることになろう。しかし、そこで青いぼくは思ってしまう。「これから仲間として働こうと思っている会社に対してそんなことができるのか・・・」と。

面接の場はお見合いの場だ。そこで両者はお互いに仲間になれるかどうかを探りあう。問題はそこで交わされる情報がどのぐらい正確であるかだ。
もし、その場での発言が全て正当なものと信頼できるのであれば何にも問題はない。お互いにそれらの情報を検討して最終的な判断をすればいいのである。
しかし、それらの発言が信頼に足るものではない場合、どれが信頼の足るのかをまず判断しなくてはならない。
それは本来からすれば余分なコストではないだろうか。しかしこれらの状況を作ったのは企業なのじゃないかと思う。新卒なんていっぱい複数受験してるのが普通でその中で第一志望なんてありえない。
なのに第一志望かどうかを聞く。「いやぁせめて面接時ぐらい第一志望と言ってくれないとね」と面接官が言う。そういう期待を感じ取れば感じ取るほど学生は心にもない「御社が第一志望です」を言わなくてはならなくなってしまう。

なんでそういう幻にしがみつくか。意味がないじゃないか。それにも関わらず企業側は第一志望であるかどうかを重視するところは多い。
やっぱり「就職は恋愛」の比喩のように、自分の会社への志望度を恋愛相手が自分に寄せる好意のように思って、そうなっているのかなあ。もうちょっと冷静になればいいのだが。
第一志望であるかどうかがその人の入社してからのパフォーマンスに影響を与えるならそういう質問をしてもいいだろう。
しかし、要は能力なのであって、志望度なんて結局はあまり関係ないのではないか(ぼくはそう思う)。確かにその人に内定を出しても来てくれるかどうかは心配だ。企業も無尽蔵に内定を出せるわけでもないので、A君に内定を出すことでB君を落とすかもしれない。そう考えると少しでも入社の可能性を確認しておきたいのもわかる。
しかし、なぜ学生が正直に気持ちを言えないのかと言えば、企業側の「第一志望でないと落とすよ」と言う姿勢が伝わっているのだろう。結局、企業側は学生の「第一志望」を信じていない。少々虚しいコミュニケーションだ。

一方、学生側も企業の伝える情報を信じていない。
「所詮会社説明会なんてプレゼンテーションであって本当のことを言ってくれていない」と感じている。
企業側は学生の気を引くためにいいことばかり言っていると感じているのである。
企業側からすれば、どの企業も自社のことをいいことばかり言っているので、自分のところだけ悪いところをさらけ出してしまうと不利になると思っている。
確かに、悪いところをさらけ出すと学生には受けが悪くなるのも事実かもしれない。しかし、それで学生を騙して採用してもどうなると言うのか。3年たって辞められたら結局採算合わないというのに。

嘘も方便で、「もののわからない」学生が自社に振り向いてくれるように一時的に方便として嘘(あまり正確でない情報)を使ってもよいという考え方もあるかもしれない。
ブッダも「機を見て法を説く」とその人のレベルに応じて説法をしていたとのことである。
しかし、ブッダはともかく各企業の人事担当者が学生を導こうとしているその先は本当にその学生に合っているのだろうか。そこがおかしければやはりだめなのではないだろうか。・・・
にも関わらず、いろいろあって結局はどの会社も「風通しのよい社風」で「実力主義」の会社と説明会で話すことになる。
そして学生は企業からの言葉よりもWEBサイトでの噂のほうを信じることになるのである。

 学生と企業の間には不信感のスパイラルが生じている。
実は昔から言われていたことだけども、状況はなかなか変わらない。
こうして今後もずっと退職率も離婚率もどんどんどんどん上昇していくのだろうか。
いや、別に転職も離婚もいいのだけれど・・・。


Previous Index Next