新歓2002レポート
平成13年入学 東畑開人
今年の新歓コンパは例年のそれとは様子が違った。空気が違った。意味合いが違った。今年の新歓は教育学部ルネサンスの第2章だったのだ。
ここ数年、教育学部ではこの学部の特色であった縦のつながりが失われていた。そこには様々な理由があったのだろうけれど、確かに失われていた。去年の新歓コンパは、僕ら1回生のほかは新歓委員長の藤木さん、そして2回生がちらほらといるだけだった。そしてその前の年も同様だったらしい。しかし今年は違った、会場には1回生が59人、2回生が9人、3回生が3人、そしてその上も院生からもっと上の人まで計6人、さらにOBが3人となり、総勢で80人という超豪勢な新歓コンパとなった。
4月26日の午後5時、僕が集合時間より早めに学部にやってくると、そこにはコンパを心待ちにしている1回生の男が数人既にやってきていた。まだ外は明るくて、風は心地よかった。そこに藤木さんがやってきて、そしてOBの内藤さん、曽和さんがやってきた。去年の学部祭以来の再会を懐かしむ僕らを尻目に、1回生は続々と集合してきて、6時を過ぎる頃には、学部のロビーはピチピチした一回生たちでごったがえしていた。熱気が高まってきた。今年の新歓は何かが起こる、僕はそう確信した。
今年のコンパ会場には天寅が選ばれた。天寅は教育学部御用達の店だったらしい。
あるOBは言った。「天寅じゃなきゃ新歓は始まらないさ、なぜならそこは常に学部の歴史の表舞台だったからだ。」ここ数年、天寅は忘れ去られていた。そして今年復活した。ここにもまた学部の未来が垣間見えた。
天寅の2階のテーブルには、新入生が6人に対し、2人の上回生がついていた。無頓着な顔をした新入生に対して、すこし照れたような上回生の顔が印象的だった。僕らもどう後輩に接したらいいのか戸惑っていたのだ。
「さぁー、いくぞー!!」教育学部伝統の乾杯でコンパは始まった。
昂ぶっていた僕のテンションとは裏腹に、新入生達の反応は冷たかった。どう反応していいのかわからない新入生達はひたすら押し黙り、藤木さんと僕のおおげさな乾杯の声が虚しくこだましていた。
新入生は既にかなり互いに親しくなっており、彼ら同士の会話は弾むが、そこに上回生は入りにくそうにしていたし、新入生も年寄りをどう扱っていのかをわからずにいた。
もっとすきっと上手くいくと思っていたから、僕は少し不安になった。テーブルごとに気まずさの塊がドデンと存在していた。
しかし、しかしだ、すき焼きの肉を焼く音が聞こえて、いい匂いが漂い始めると、会場は次第に温まってきた。色々なところで歓談の声が聞こえ始め、一回生のコンパ委員がイッキをふる声が響き渡った。
それからはあっという間だった。
ぎこちなかった新入生と上回生の会話も、油をさしたようにスムーズに回転しだし、アルコールの魔力がそれをさらに後押しした。テーブル、テーブルを個々に包み込んでいた親しみの膜が、二つのテーブルを繋ぎ、そして会場全体を一つにした。だれもが打ち解けて、くだらない話に興じていた。親しみを示し、しかしそこには互いへの敬意があった。
ある一回生は叫んでいた。
「俺、マジ教育学部はいってよかったすよ、いや本当によかったっすよ。」
そしてある上回生が言った「入学おめでとう、待ってたよ。」
成功した。僕はそこで思った。去年と違った新歓コンパがそこにあったからだ。新入生同士の輪の中に、自然に上回生が混ざっていた。今年の一回生は幸せだ、そう僕は思った。入学した時に、それを待っていてくれた先輩がいる。この事実を実感できた今年の一回生は実に幸せだと思ったのだ。
僕の記憶はそこで一気に飛んでしまう。気付いたら、2次会の会場、バー「シシリー」で一回生と喋っていた。そしてその後は、新歓委員長としての職責も忘れて、純粋にその場を楽しんだ。楽しかった。そう自信を持っていえる一日になった事に、僕は今でも満足している。
教育学部の一年は始まったばかりである。この後、新歓合宿もあるし、そしてNFでは学部祭もある。そして、その流れが来年も再来年も連なっていく。倒れ出したドミノはもう止まらない。去年の学部祭で一つ目のドミノが倒れ、そして新歓コンパで二つ目が倒れた。あとは加速にまかせて、教育学部はまた一つになってゆくのだと思う。
上も下も楽しく交じり合える学部。そんな教育学部が復活する。それを感じさせるいい新歓コンパだった、僕はそう自負している。
最後にある2回生の言葉を紹介して、結びとしよう。
「ある1回生と喋ってたんだ、おそろしく髭の濃い1回生だ。そいつは熱っぽく自分の将来について語ってたよ。世界一の学校を作るってね。俺はぬるくなったビールを喉に流し込みながら、そいつの瞳を覗き込んだんだ。そこに何があったと思う。そいつのひどく澄んだ美しい瞳に映った、濁った目をした土色の顔をした俺さ。そして思い出したんだ。俺にもこんな時があったって。そして俺の夢も同時に思い出したよ。俺は通訳になりたかったんだ。そうさ、それから俺は木曜日、1コマめのドイツ語に出席するようになったのさ。な、俺はあいつから学んだんだ。そして、それこそが新歓なんだ。」